FC2ブログ
✡暁えるの小説✡

第八話「俺の嫁」

 とんがり帽子にねじれた杖。
 杖の先が淡く光を放っている。
 パッと見の印象は背丈が低い。
 7歳の俺と変わらない気がする。

 一言で言うなれば魔女っぽい。
 黒い衣装に|外套《マント》を羽織りミニスカートから乳白色の素足が覗く。
 魔女っ子と言えば女の子だ。
 杖の先端の光から顔が浮き彫りになる。
 素顔は可愛らしい少女だった。
 鼻がちょっぴり低く耳がエルフのように尖がってもいた。

 少女の後ろからもう一人、少女が覗かせる。
 魔女っ子の外套の後ろにいたのはマリーステラこと俺の娘のマリーだった。

「やあ、マリー。その子は一体誰なんだい?」

 俺はベットに座るように身を起こした。
 マリーが慌てるように口元に指をあてる。
 
「しー! パパ、大きな声ださないで」

 まあ、大きな声をだすなと言われれば特にだす理由もない。
 部屋に入るとマリーがそーっと音を立てないようにドアを閉めた。

「今からパパに大切な話をするんだから、パパ、隣に座ってもいい?」
「別にいいけど……そちらの方は?」
「魔法ママだよ」
「え? それって俺の嫁になった人?」
「そうだよ」

 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
 29歳の俺の属性はロリ属性だったのか?
 身長も7歳の俺とさほど違いがない。
 魔法ママとやらが俺の方へと歩を進めた途端。

 どてぇ!!! 部屋に物音が響いた。

 暗くて躓いたのか「ドテェ」と魔女っ子が前のめりに転んだのだ。

「魔法ママ、大丈夫?」

 マリーが助け寄るが俺が一足先に助け起こした。
 転んで、にへらと笑みを浮かべた魔女っ子は、自然な青い髪に青い瞳でサファイヤのように瞳がきらめいていたのだが、瞬時にはちきれんばかりの涙目となる。
 
「王子……いえ、ルーシェ……」

 眼前に立つ魔女っ子が俺のガウン風のパジャマを掴み口元をへの字にし、か細い声を発した。

「ルーシェの元気な顔が見れて嬉しいのです」

 転んで痛かったから涙目だと思いきやそうではないようだ。
 
 彼女は嗚咽を堪えながら俺に抱きついてきた。
 俺からしてみれば初対面だが、彼女からしてみれば感動的なご対面なのかもしれない。
 そう……未来の俺は殺されてるんだから……。

「ごめんなさい……ルーシェ……過去のルーシェからしてみれば初対面なのに……でも、あまりにも嬉しくて辛抱できませんでした」

 中学生ぐらいの少女にしては口調が丁寧だと思った。

「あ、いえ、マリーからある程度の話は聞いてましたので……未来の俺は殺され、家族も殺されると……」

 魔女っ子は俺からそっと離れた。
 瞳は涙で潤んでいたが瞳の奥からこの子の芯の強さを俺は感じ取った。

「魔法ママもパパの隣に座りなよ」
「そうですね……。私も隣に座らせて頂きますね」

 二人は囁くように小さな声で語り始めた。

「ルーシェ、私は時魔導師で名をドロシーと申します」
「時魔導師?」
「時空を操る魔術に長けてる魔術師のことです」
「魔法ママは、魔術師の中でも高位の称号を持つ|魔導師《ハイ・ウィザード》で付与魔術のエキスパートなんだよ」

 マリーが補足してくれた。
 やはりこの世界に魔術はあるんだ。

「その若さで高位の魔術師だなんてドロシーは凄いんだね」
「いえ……私は……」

 ドロシーが恥ずかしそうにモジモジしてる。

「私はルーシェよりもずっとずっと遙かに年上なのです」
「……え? それって俺と同じように転生者ってこと?」
「ルーシェが勇者に挑む前日。その話を聞かされた時は私もマリーも驚いたものです。懐かしいですね……。私は幼く見えますが300歳を超えてるんですよ」

 ほえー……。
 ほんと見た目は中学生ぐらいなのに……。

「で、マリーが俺とドロシーの子なんだね?」
「それも違います……。マリーの実母は勇者に殺されました……未来で生存確認できた家族は今のところマリーだけなのです」
「な、なるほど……」
「本来は時間軸に干渉する魔術は禁忌なのです。……でも、あんなにも悲惨な未来なら……せめて…………ルーシェが元気に生きている未来が一つぐらいあってもいいと私は考え禁忌を侵しマリーとともに時空間魔術でこの時代にやってきたのです」

 俺は考え込んだ。
 死んでも構わないぐらいに考えていたからだ。
 前世の俺は何一つ親孝行できなかったクズ野郎だ。
 両親を失ってから何でもない日常の中にこそ幸せがあったのだと気づかされた。
 それは喩えブサメンな俺であったとしてもだ。
 いや……違う。
 ブサメンを理由に人生そのものを放棄し逃げ続けてきたのだ。

「ドロシー、よかったら教えてくれないか? 俺は何をするべきなんだ?」
「私とマリーがこの時間軸に干渉しルーシェとこうしてお話してる時点で既にルーシェの歩む道標に変化が訪れたやもしれません。この時代に生きてるルーシェは私とマリーが知る未来のルーシェではありません。だから多くは語りません。私が全てを語ることによって、今の時代のルーシェの人生を束縛したくはないのです」
「…………」
「ですが……ルーシェに生きててほしい。私からルーシェに伝えられるのは明日会う召喚勇者のうちの二人の男女に注意してください。ほとんどの者が達が黒髪の中。一人だけ茶色い髪の男の子がいます。もう一人は一見大人しそうに見える女の子ですが、茶色い髪の男の子とは恋仲です。しかも、その二人は中でもずば抜けた人外の力を秘めています。ルーシェも家族もその二人に惨殺されたのです」
「えーっと、たしか俺が殺されるのは二十歳になった頃だよな?」

 俺はマリーに確認した。

「うん、そうなんだ。パパがもう少し強かったら良かったんだけど……幼い頃のパパは魔術の修行もサボり気味でイケメンを理由に女の子のケツばかり追ってたんだって、ねえ、魔法ママ」
「そ、そうですね……」と、ドロシーは遠慮がちに呟く。

 実際、そうなんだろうな……。
 ドロシーやマリーから、こんな話を聞かされてなかったら俺はイケメン補正を理由に遊び回ってただろうな。しかも王子様だし……きっと金に苦労することも無いのだろう。
 
「パパ、もうそろそろ、お別れかも……」
「え? なに? 唐突に……お別れ?」
「魔法ママの魔力が尽きちゃう……もうすぐ元の未来に強制送還されちゃうよ」

 元の未来? 強制送還?
 突然、マリーは何を言ってるんだ?

「二人ともいなくなるって意味なのか?」
「そうだね……マリーも魔法ママもずっとパパといたいよ。でも、そうもいかないの」
「ルーシェ……最後に私の手を握ってくれませんか?」

 俺の膝にドロシーとマリーが手を乗せてきたので、二人の手を強く握り尋ねた。
 
「あと、どれぐらい持ちそうなんだ?」
「1分くらいかな? 魔法ママ?」
「はあ? 1分だって?」

 マリーとドロシーの身体が半透明になっていく。

「パパ会えて嬉しかった」
「私もまたルーシェに会えて、とっても幸せでした」
「お、おい、マジかよ」

「元気でねパパ」
「ルーシェ、幸せになってください」

 二人の温もりが消えた……。
 何だこの喪失感は……。

 俺は茫然とした。
 寂しさが込みあげてきた。
 特にマリーとは過ごした時間が一日にも満たないが、孤独に異世界に転生してきた俺の良き理解者でもあり家族だった。

 茫然としてると誰かがドアをノックしてる。
 俺はドアに駆け寄った。
 マリーとドロシーが再度未来からやってきたのかもしれない。

 期待を込め俺はドアを開けた。
 そこには眠たそうに目を擦るメアリーがいた。

「ルーシェ様、誰かいるのですか? ぼそぼそ声が聞こえてました」
「あ、いや……誰もいないよ」
「そうなのですか?」

 メアリーは部屋に入り様子を窺ってる。

「ルーシェ様の寝言だったんですね」
「そ、そうなのかな……」

 俺は誤魔化すように頬をポリポリと掻く。

「メアリーは睡眠の続きをとってきます」

 メアリーはそう言うと寝ぼけてるのだろうか?
 俺のベットに潜り込んだ。

「ルーシェ様、おやすみなさい」

 ヤレヤレと思いながら、俺は暖炉の前のソファーの上に寝そべった。

←7話へ
スポンサーサイト

第七話「抜けきれない習慣」

「ルーシェ様、お風呂の準備はできてますが、大丈夫ですか? お熱の方は?」

 メイド服姿のメアリーが心配そうに、しゃがんで俺のおでこに手を当てる。
 顔が近い。彼女の吐息が必然、俺の顔に吹き込む。
 視線を下に向けると豊かな双丘の谷間が……。
 …………ゴクリ。
 思わず固唾を飲む。
 俺は緊張しながら声を絞り出した。

「だ、だいじょぶだよ、あの水は薬だったのかな……」
「うーん、熱はなさそうですね。あの水は聖女様が清めた聖水です。とても貴重なものらしくて、一杯の水を清めるのに数年の年月がかかるらしいです。……身体の穢れを落としてくれる、ありがたお水なのです」と、にっこり微笑む。

 なるほどな。
 ママンやメアリーはすこぶる心配そうにしてるが、親父の態度は平然としてた。
 あの水の効果をよく知ってるのだろう。
 ゲームだとエリクサーに該当するようなものかもしれない。
 
 それとは別に俺の脳内はエロい妄想に支配されていた。
 ブサメンでエロゲーが恋人だった俺はエロい石鹸シーンを思い浮かべていた。
 まさかと思うが、このまま石鹸枠、到来か?
 
「ルーくん、着替えはここね。マリーはメアリーとこれから食事の後片付けだからお風呂からあがったら部屋に戻っててね」

 マリーの言葉で目が覚めた。
 俺は29歳だった。しっかりしろ29歳……。
 いくらイケメンになってたとはいえ、妄想でも極端すぎるだろ!

 メアリーとマリーがいなくなった。
 さて風呂に入るか。
 着衣を脱ぎ浴室に入る。
 
 浴室も油を注いだランプで火がともされており明るい。
 湯船から湯気にのって檜の香が漂ってくる。
 大人三人ぐらいなら悠々と浸かれそうな広さだ。
 この世界って水道がなさそうだから、風呂って割と贅沢な気がしなくもない。
 
 桶で身体を軽くすすぎ、ちゃぽんと湯船に入った。
 うーん、湯加減最高だ。メアリーに感謝だな。
 そういや親父が明日は召喚者の称号授与式うんぬん言ってたな。
 それにマリーの話によると俺は二十歳の時に召喚勇者に殺されたらしい。
 
 そもそも召喚者ってネット小説で良く見かけるアレじゃないのか?
 異世界から召喚された異世界人は圧倒的なステータスだったりチートの保持者だったりするアレだろ?
 
「ステータスオープン!」

 こともなげに呟いてみた。
 特に何も起きなかった。

 しかし……どんな世界からどんな勇者が召喚されてるんだろうな。
 二週間前か……。
 俺が寝込んでたのも二週間前からって言ってたな。
 何か因果関係あるのかな?
 それに不思議だ。
 この身体って誰か別の人間の身体かと思いきや、やはり、どう見ても俺の身体だ。
 顔はイケメンになったが、どことなく俺の顔だ。
 元のブサメンをカッコ良くしたらこんな顔になるような気がする。

 勇者が召喚されるってことは魔王とかいるのだろうか?
 寝込んでたらしい俺の身体を癒してたのも神聖魔法って言ってたし魔術なんかはありそうだ。
 でも……両親もメアリーもマリーも魔術とかやってなさそうだよな……。
 ウルベルトは魔術師というより騎士って感じだ。
 シメオンってオッサンは神官とか司祭とかいう類かもしれないな。

 まあ、何よりも驚いたのがヒキニートの俺が王子様?
 そして親父が王様? かも?
 いやいや……なんだか王様って感じじゃねーなあ。
 王族ではあっても王様ではない気がする。
 そもそも、ここ城でもないし。
 
 後で全部、マリーに聞けば分かりそうだな。
 全てはそこからだ。
 
 さっぱりとした俺はガウンコートのようなパジャマを纏い二階の自室に向った。
 階段を上ってると両親が風呂場に向ってるのが目についた。

 一番風呂、貰って良かったのかな。
 まあ、親父が入れって言ったし問題ないだろう。

 部屋に戻ると燭台の蝋燭が若干短くなっていた。
 消さなくて良かったのかな?

 ほてった身体でベットに腰かけ俺は、ぼーっとしながら部屋の周囲を見渡す。
 部屋には誰もいなく、しーんと静まりかえってる。
 すると、なんとなく言葉が漏れた。
 
「PCがねぇな……」

 積み上げてたラノベもねぇ……スマホもねぇ……何もねぇ……。
 やることねぇ……。
 退屈だ……。
 前世の俺はネット中毒気味だった。
 パソコンがないとなんか気持ちが落ち着かない。
 電気もない世界ぽいし諦めるしかないだろう。

 そうなると考えることは食いもんが優先された。
 ポテチか……。
 割と再現できてたよな。
 ラーメン屋とかたこ焼き屋とかやると儲かるかもなあ。
 寿司もいいかもしれない。
 それぐらいの知識チートは持ってるつもりだ。

 そう思いながら退屈な俺は窓から外の景色を覗き見る。
 やはり街灯とかない。
 光源は月明りと家々の窓から漏れる蝋燭の明りだけだ。
 そよ風が吹いた。
 少しばかり肌寒くなってきた。
 季節的には何月ごろなんだろうか。
 気候の変化とかあるんかな?

「コンコン」

 誰かがノックしてる。
 メアリーかな? それともマリーか、もしくは二人か? 
 ドアを開けるとメアリーだった。

「ルーシェ様。明日の早朝、起こしにまりますね」
「うん、わかった」

 俺のガウンの着こなしが悪かったのかメアリーが直してくれてる。

「はい、できましたよ。ベットに向いましょうか」

 俺はベットに寝かされ布団をかけられた。
 メアリーが優しげに微笑む。

「ルーシェ様、おやすみなさい」
「ありがとう、おやすみ」

 俺も微笑み返したが、ぶっちゃけ全然、眠くねぇ……。
 とりあえず転生したと結論付けるのも早計だが、転生したとしておこう。
 だが、しかし、困ったことに前世の習慣が抜けきってない。
 徹夜でゲームしたい気分だ。
 むずむずする。

 メアリーはやんわりと微笑むと窓の戸を閉め燭台があるテーブルの前に立った。
 
「明りはどうなさいますか?」
「あ、そのままでいいよ」
「かしこまりました」

 メアリーが部屋から出ていった。
 随分と疲れ切ってた顔をしていた。
 俺の看病をしながら雑務もこなしてたに違いない。
 徹夜でゲームしてぇ……なんて考えた29歳の俺は恥ずかしくなった。
 これじゃ転生しても何もかわんねぇじゃん。

 とりあえず今夜は大人しく寝ることにしよう。

 寝ようと思った矢先、またしても「コンコン」とドアのノック音がした。
 流石にメアリーじゃないよな。
 今度はマリーでもきたのかな?
 ドアを開けに向おうと身体を起こしたがドアが勝手に開いた。
 ママンのエミリーだった。

「ルーシェ、おやすみ」
「あ、母上、おやすみさない」

 俺と似たようなガウンを着て濡れ髪で頬が火照っていた。
 風呂上がりなんだろう。
 ママンはそれだけ言うとドアをゆっくり閉め去っていった。
 よくよく考えたら29歳の俺はエミリーよりも年上かもな。

 さーて、寝るか。
 時計がないから時間がさっぱりわかんけど。
 ぼーっとしてたら、そのうち眠くなるだろう。

 ――――随分と時間が経った気がする。

 ガチャりとドアノブを捻る音がした。
 今度は誰だろう。
 ノックもない。
 親父かマリーなのかな。

 俺は身体を起こし目を細めた。
 そこには……。
 ――――ん? 君……誰?
 見知らぬ少女が立っていた。

8話へ→
←6話へ

0101.gif

第六話「日常」

 食卓は一階だった。
 今更ながら思う。
 豪華な館だ。
 廊下も長く途中に何部屋もあった。
 俺はどんな家系に生まれてんだ?
 俺達が食卓まで辿り着くと初めて見る顔が一人いる。
 食卓は数多くのランプや燭台に照らされ部屋のように薄暗くなく明るい。
 
「ルーシェリア、どうだ調子は? 無理せず部屋へと食事を運んでもよかったのだぞ?」

 メアリーが言ってたのと話がちょっと違うと思ったがまあ……いい。
 アーサー王の円卓を彷彿させるような食卓の上座にて親父がゆるい笑みをこぼした。
 親父の右隣にはママンのエミリー。
 左隣りには初めてみる騎士風の男。
 その隣には純白の法衣を纏ったシメオンがいる。

 俺はママンの隣の椅子へとメアリーに案内され隣にマリーそしてメアリー順で着席した。
 着席すると親父の隣に座る騎士風の男が俺に話しかけてきた。
 
「ルーシェリア王子。すっかりご気分麗しくウルベルトめも安心いたしました」

 赤茶けた髪色で風のように爽やかな笑みを浮かべる青年だ。
 お、王子?
 俺は王子なのか?
 戸惑いながらも俺は返礼した。

「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます」
「ルーシェリア王子、ご丁寧な挨拶、恐悦至極に存じます」

 つーことは親父が王様って話しなの?

 ウルベルトは終始ニコニコしてる印象で気さくなお兄さんって感じだ。
 歳は親父より少し若いかもしれない。

「ルーシェお身体は平気なのですか?」

 隣に座るママンのエミリーが心配そうに声をかけてくれた。
 
「母上、心配無用です」
「何度も言いますが、あなたは二週間以上も寝たっきりだったのですよ?」

 心配そうな眼差しを向けられても本当に平気なんだよな。
 二週間って聞くとリハビリとか本来なら必要な域かもしれないが。
 
「本当に大丈夫です」

 俺の返答にシメオンが顎ひげを整えながら瞳に笑みを浮かべ答えた。

「大丈夫だろうて、貴重な生命の水を三杯も飲みほしたのだ。エミリー殿、そう心配なされるな」
「そうだぞ。我が子ルーシェリアは軟弱者ではない。こうして元気にしておる。明日は二週間前に召喚された者たちの称号授与式だ。ルーシェリアも参加するがよい」

 父が真剣な眼差しで俺を見た。
 召喚? 授与式? なんじゃそりゃ……。
 もしやマリーが言ってた召喚された勇者のことか?
 
「かしこまりまし父上」
「では、食事にいたそう。ミッドガル王国の繁栄と平和。ルーシェリアの快気祝いといたそう。乾杯だ!」

 全員で乾杯した。
 俺とマリーはジュース。
 そして目をみはるばかりの料理群。
 なんとも豪勢な食事だこと。
 俺の為にメアリーや両親が腕を奮ってくれたそうだ。
 玉ねぎ型のスライムみたいな蓋をあげると、鉄板の上に肉汁溢れるステーキが乗っていた。
 焼き立てのようだ。
 湯気と肉と香辛料の香が鼻腔を襲う。
 ナイフを入れフォークで一口運んでみた。
 
 旨い! ジューシだ。

 口の中でとろけていく。
 脂身はほとんどない赤身肉だ。
 食べ慣れた牛肉とも豚肉とも違う。
 鶏肉って感じでもない。
 何の肉か分からないが、とにかく臭みがない。
 
「どうだ、ルーシェリア。久々のドラゴンステーキだ。旨いだろ?」
「ドラゴン?」
「ああ、そうだ」
 
 父がステーキを口に運びながら自慢げに笑った。

 ドラゴンの肉なのか、これ。
 
「ルーくん、これ食べてみて」

 隣のマリーが、ニパっと笑みをこぼしバスケットを俺に両手で差し出した。
 その上には見慣れた菓子があった。
 ……ん? これって。

 マリーが小さな声で囁く。

「パパが未来で作ってくれたポトチってお菓子だよ。ジャガイモを薄くスライスしたモノを油で揚げて塩ふっただけなのにサクサクして、おいしいね。パパの為にマリーとメアリーで作ったんだ」
「どれどれ」

 これも旨い。まさにポテチだ。

「あれ~? 未来のパパは涙して懐かしそうに食べてたのに……あんまり嬉しそうじゃないね?」
「え? いや嬉しいよ」

 俺的な感覚では三日前に食べたばかりだった。
 
「マリー、私も頂いていいかしら?」

 エミリーの目にとまったようだ。
 エミリーが食べ、順にバスケットを全員に回した。

「ほほう、イモを油で揚げるとこんなに旨いとは驚きじゃな」
「味付けが塩だけとは恐れ入りました」

 シメオンとウルベルトが感嘆の声をあげた。
 
「マリーにメアリーよ」
「はい、旦那様」
「はい、お爺様」
「沢山作って街の子供たちにも食べさせてあげるとよい。作り方も教えて使わせ。我が国の名産物になるやもしれん」
「はい、かしこまりました旦那様」
「は~い」

「パパ、パパのパパはマリーのお爺ちゃんでアイザックって名前なんだよ」
「ほう、そうなのか?」
「名前知ってないとパパ困るでしょ!」
「俺の父の名はアイザックって言うんだな」
「そうだよ? ちゃんと覚えておくんだよ。お爺ちゃん、割と豆腐メンタルなんだからね。下手したらショックで寝込んじゃうんだから」

 マリーが小声でそう囁き教えてくれた。
 あの援護射撃は意図的だったのかもしれないな。

 食事が済むとシメオンとウルベルトは父に礼を述べ帰った。
 ここに住んでる訳じゃないようだ。
 まあ、当然だよな。

「ルーシェリアよ、明日は早い出仕になる。風呂を浴び、ぐっすりと眠るがよい」

 食事が終ると親父は俺に風呂を進めた。

「はい、父上」
「ルーくん、お風呂いこ」

 俺とマリーは食卓から風呂場へと向かう。
 そういや、途中からメアリーの姿が無いな? どこいったんだろう?

「ルーくん、キョロキョロしてどうしたの?」
「メアリーどこいったんだろ?」
「お風呂に薪をくべてるんだよ。お風呂の準備が整ったら食事の後片付けもあるから、マリーも毎晩お手伝いしてるよ」
「二人とも働き者なんだな……」

 前世ヒキニートの俺は進学はおろかバイト経験すらない。
 無論、就職なんて言葉は俺の辞書にはなかった。

7話へ→
←5話へ

◆◇◆◇◆◇超魔術転生~最強の7歳の俺に嫁と娘がいた~
日間最高2016年06月07日【6位】
小説家になろうで連載中です! よろしくお願いします!
小説家になろう
※なろうテキストコピーの為、ルビの記号はそのままです。

第五話「イケメン補正」

「最初のママの話から聞かせてくれないか?」
「うん、いいよ」

 俺の人生でこれほどまで気持ちがプラス面に高揚したことが、かつてあっただろうか。
 
「えっとね、最初のママは魔法が使えてね」
「うんうん」
「パパ。鼻息が荒いよ」
「おっと、そりゃ失礼」

 どんな神様か知りませんが、こんな俺に素晴らしい未来を提供してくれてありがとうございます。
 鼻息を抑え俺は見知らぬ神に感謝した。
 感激してるとドアをノックする音が聞こえた。

「ルーシェ様。夕飯の支度が整いました」

 ドアが開いた先にはランタンを手に持つメアリーがいた。
 気が付けば部屋は燭台が照らす蝋燭だけが頼りとなっており、外はすっかり夜になっていた。
 ランタンが照らすメアリーの表情が一瞬曇った。
 そしてメアリーの視線はマリーを直撃した。

「あ、こら、マリー。ダメじゃないのルーシェ様は病み上がりなんですよ。ベットの上にまでのっかって!」
「だってルーくんが寂しいって言うんだもん」

 マリーが俺をじーっと見つめる。
 俺の異世界ライフはマリーの発言で世紀末となるだろう。
 ただでさえ俺は究極ブサメン29歳ヒキニートだ。
 幼女趣味の変態やろうって|刻印《レッテル》を刻まれたに違いない。

「まあ、子供同士仲良くするのも結構ですが、ルーシェ様がご無理をして倒れるようなことになったら困りますよ」

 マリーは素直に「ごめんなさーい」と返事した。
 俺の異世界人生、早くも詰んだと思ったが杞憂に終わりほっと安堵した。
 よくよく考えたら俺の身体は幼い子供だった。
 そういやマリーって本来この世界に、まだ生まれてないんだよな?
 どんな設定になってんだ?

 気になるがメアリーの前だと記憶うんぬんを蒸し返しそうで聞きづらい。
 
「ルーシェ様。お熱はないですか?」

 メアリーが俺の額の手を当てた。
 
「うん。すっかり元気になったよ」

 俺がイケメンならここでカッコ良く笑みをこぼしたいところだが、俺がやると下品極まりなくマイナスにしかならないことを俺はわきまえている。

「大丈夫みたいですね。お食事は旦那様が是非とも食卓にて囲いたいとの仰せでしたが、無理に動くとぶり返すかも知れません。こちらにお持ちいたしましょうか?」

 親父が食卓でって言ってるなら選択の余地はないだろう。
 俺も普通に歩けそうだし。

「メアリー食卓で食べよう。俺はもう平気さ」

 俺の言葉でメアリーは喜びを色をみせた。
 笑顔になると笑窪と八重歯が可愛い子だと知った。

「ルーシェ様。お着替えして食卓に向いましょうか」
「お着替え?」
「はい。メアリーがお手伝いいたします」

 俺は29歳だ。
 お着替えなど園児でもできる子はできる。
 しかも隣には俺の娘と主張したマリーもいる。
 さすがに、これ以上娘の前で恥を晒したくないと見栄を張った。

「ダメです! ルーシェ様。メアリーのお仕事なんです!」

 メアリーが頬をぷくっと膨らました。
 でもなぁ……。
 マリーもみてるし……。

「パパ、マリーはお外にでてようか?」

 逆に気を遣わせたのかな?
 この世界じゃ当たり前のことなのかな?
 そんな事を考えてるとメアリーは器用に俺の上着を脱がした。
 そしてメアリーは手拭いで俺の身体をふきふきはじめた。
 え、え? そんなことまで?
 とか思いつつお任せしてたらパンツまでメアリーは当然のように脱がそうとしてきた。
 それって何てエロゲーなんだ?

「メアリー! ちょっとまって!」
「どうかされたんですか?」

 澄まし顔でメアリーは言う。

「どうもこうもないよ! パンツぐらい自分で履き替えるよ!」

 メアリーはポカーンとしてる。
 マリーがくすくすと笑ってる。

「あら、ルーシェ様も年頃になられたんですね」

 年頃というより俺の中身は29歳だ。
 しかもメアリーは16歳。
 ここだけは譲れないとして俺は二人を半ば強引にドアの外へと追い出した。
 メアリーはことはかとなく不満げだったが。

 ふう……。
 一時ではあるが、よくよく考えてみたら俺はベテランヒキニートだ。
 一人だけの空間もある意味、居心地がいい。

 ちなみに着替えといっても汗だくのパジャマから清潔なパジャマに着替えただけである。
 俺は気持ちを落ち着かせるため窓から外の景色を見渡した。
 月明かりがヨーロピアンな街並みの赤レンガの屋根を優しく照らしてた。
 どうやら俺は二階建の建物にいるようだった。

 窓から目を逸らした時、俺は動く黒い影にギョッとした。
 気のせいと思いながらも視線を向けるとテーブルの上に鏡があった。
 燭台の三本の蝋燭が怪しく俺の姿を鏡に反射させていた。

 だが、鏡に映ってるのは俺ではなかった。
 
 おめぇ……誰だ?
 鼻をほじってみた。
 俺が鼻をほじほじすると俺の真似してほじほじする。
 ドッペルゲンガーじゃあるまいし俺をバカにしてるのか?
 
 俺は黒髪黒眼のはずだ。
 鏡に映ってるのはメアリーやマリーと同じ亜麻色髪で琥珀色の瞳を持つ少年だった。
 もしや……これが俺なのか?
 もし…………そうだとしたらあり得ない。

 ガキっぽく、あっかんべーしてみた。
 ヤバいぐらい可愛い。
 一見するだけじゃ男の子か女の子かの区別もつかないほど、この世の人間とは思えない魅惑的な美少年だ。
 俺はパジャマのズボンを降ろし鏡に丸出しのケツを反射させる。
 こんなバカな真似まで平然と奴は真似をした。

 ――――紛れもない俺自身だ。

 俺が良く知る異世界モノのネット小説やラノベだと何かしらのチートが授けられるパターンがテンプレだった。

 もしや……これが俺のチートじゃないのか?
 美少年って言ってしまえば身も蓋もないが、人間を超越してる美しさだ。
 俺自身が鏡を見てほれぼれする。
 
 異世界チートに超魔術や念動力、はたまた強奪系のスキル習得や神懸かり的な異世界アイテム召喚なんて能力が選べる選択肢があったとしても俺ならばこのイケメン補正を迷わず選択しただろう。
 マジ……神様? 女神様? 出逢った記憶はないけど感謝感激です!

「ルーシェ様、まだですか~?」
「ルーくん、マリーはお腹ペコペコだよ~」

 ドアの向こう側から二人の声が聞こえた。

6話へ→
←4話へ

第四話「少女の謎」

「パパやっと二人っきりになれたね」
「はい?」

 二人っきりになった途端、椅子に座っていたマリーがベットに飛び乗り勢いよく俺に抱きついた。
 な、なんだ!!!
 俺は困惑しながら流し目でマリーを見る。
 マリーは満面の笑顔だ。
 
「マリーはパパに会えて凄く嬉しいです」

 俺はブサメン29歳のヒキニート。
 異性と付き合ったこともなければ無論、婚歴もない。
 それがなんだ? 良くわからない世界に転生させられたと思いきや妹だと思ってた少女にパパって呼ばれる?

 ここが元の世界なら俺は鼻で笑い、この子は残念な子に認定したに違いない。
 だが……。
 記憶を持ったまま異世界に若返り転移したことだけでも、|非日常《オカルト》なのだ。
 ましてや聞いたこともない言語を即時理解でき、この世界には魔法まであるようなのだ。
 だったらSFチックに『私は未来からきました』とかこの子が言っても俺は驚かない。ここが異世界ならそれこそ許容範囲でもある。

 本当に俺の娘であってほしい。
 それこそがブサメンでもリア充になれるという生きた証拠となるからだ。

「パパ、私の名前はマリーステラ・シュトラウス」
「マリーステラ? シュトラウス?」
「マリーステラだからみんな短縮してマリーって呼ぶの。シュトラウスはこの家の家名なんだよ」

 マリーは俺の隣で羽を伸ばすように足を伸ばし頭を少し俺の肩に預けている。
 恐らくシュトラウスというのは苗字みたいなもんなんだろう。

「パパとママが名付けてくれた名前だよ」

 そう言ってマリーはニパっと笑う。
 俺は娘と名乗るマリーをちらりと見ながら。

「――本当に俺の娘なのか?」
「え? なあに? 信じてないの?」
「あ、いや……だって……」

 マリーが猛烈な視線を浴びせてくる。
 信じたいが俺の遺伝子からこんなに可愛らしい子が生まれるなんて、なんて奇跡? 
 俺はブサメンの極みだ。
 前世の世界で俺は俺ほどのブサメンを知ってるだろうか?
 
 答えは迷うことなく『ノー』だ。
 でも……仮に俺の娘だとすると誰との子だろうか?
 これから人生で俺はこの子の伴侶と出逢うことになるのだろうか。

「パパはこの時代の人じゃないんだよね」

 ドキッとした。
 己の中で結論はでていない。
 これが転生なのか転移なのか、未だ答えは導き出せていない。
 それでも俺にとって最大級の秘密である。
 それをいともあっさりと……。

「驚くことないよ? 未来のパパが話してくれたんだよ。病気から目覚めたばかりのパパは自分に自信の持てない小心者だからハッキリ物事を伝えなさいて言われたの」

 なるほど。未来の俺がマリーに話してたのか。
 まあ、今の俺も今後の俺もずっと小物感満載って気がしてるけどな……。

 俺は溜息交じりに否応ながらにも納得した。
 ブサメンの俺は他人の顔色を必要以上に窺って生きてきた。
 俺に向けられる感情は決まって嫌悪感で、目立つとロクなことがない。
 できることならば、ダンジョンの最下層にでもひっそりと息を潜めたいと思う日々の連続だった。
 俺には目立つことこそがタブーであったからだ。
 わかっていたはずだったのに、俺は17歳の頃、最大の過ちを犯した。
 ブサメンたる種族でありながら、色ボケし女の子に告白したことだ。
 ブサメンの俺はスマートにフラれることすら許されない。
 全校生徒へ、燃料という名のネタ投下したに過ぎなかった。

「で、パパ信じてくれた?」
「信じるよ。俺がこの時代の人間じゃないのは紛れもない事実だから……でも……今更、人違いでしたってのはナシだかんな?」

 俺はブサメンだ。
 娘とはいえ顔に自信のない俺は消極的だ。
 俯き加減で未だ俺の娘だと主張したマリーの顔を直視しできてない。

「マリーがパパを間違えるはずないでしょ」

 言われてみればそうなのかもしれん。
 子が親を間違えることは、あまりないだろう。
 
「パパ、マリーの瞳ちゃんと見てくれない」

 マリーはベットの上で正座し俺に向き直った。
 いくら娘とはいえ究極のブサメンを至近距離でぶっ放すなんて、酷いこと俺にはやはり、ためらわれる。

「ねえ、パパの顔ちゃんとみたいんだ」

 マリーが甘声で囁く。
 未来で見慣れてるだろが、振り向いた途端、悲鳴なんてあげないよな?

 脳内が混迷し胃液を戻しそうなほどのストレスが押し寄せてくる。
 もし、ここでマリーに嫌悪感を抱かれたら俺はもう一生立ち直れないだろう。

「パパ……どうしたの?」
「あ、いや……別に……」
「もう、パパったら意気地なし。未来のパパは自信に満ち溢れてるよ」
「この俺が……? 自信に満ち溢れてるだって?」
「やっぱり転生直後のパパは自信なさげ……未来のパパが言ってた通りだね」

 早くも俺は娘に愛想尽かされるのか。
 本当に情けないクズだな……俺って。
 俺が落ち込んでるとマリーが、頬に軽くチューをしてくれた。

「パパって誰もが羨むイケメンなんだから、もっと自信を持てばいいのに……」

 美醜逆転世界ネタのネット小説を、読んだことがあったな……。
 そんなネタ的な世界なのか?
 よくよく考えたら俺はこの世界で鏡を見たことが無い。
 まあ、今日、目覚めたばかりで当然でもある。……が、しかし。
 前世の世界から通算すると俺は10年以上、鏡を見ることを憚り見ていない。

 俺は異世界に転生? したことによって顔が変わってるのか?
 幾度となく手のひらを見てもやっぱり俺の手だ。
 指紋も手相も見慣れたものだ。
 ご都合主義に顔だけ変わってますなんてありっこないだろう。
 だが、マリーはゴブリンのように醜悪な俺に、何の躊躇いもなくチューしてくれたんだ。
 俺もその勇気に応えなくてはなるまい。

 俺はマリーへと振り向いた。
 必然。目と目が合う。
 
「パパ。未来のパパは20歳で死んじゃうだ」
 
 意を決して勇気を振り絞ったのにマリーは俯いてた。
 そして寂しそうに囁いた。
 肩すかしをくらった気分だが、マリーの言葉を俺は繰り返した。

「え? なに? 俺が死んだ?」
「パパを殺したのは異世界から勇者として召喚された人達なんだ」

 マリーの瞳に涙が溢れ零れおちそうになっている。
 
「マリーね、またパパに会えて嬉しいんだよ」

 俺自身、俺が死んだって話はさほど驚かなかった。
 自分の死よりも結婚できた事実の方が俺には興味深い。
 マリーは今、何歳なんだろうか?
 本当に俺の娘なら俺は何歳で子をもうけたのだろう。
 
「マリーは何歳なんだい?」
「今のパパと同じ7歳だよ?」

 ……ってことは俺は逆算すると12歳で種付けしたってことなのか?
 ちなみに俺は7歳なのね。
 
「パパだけじゃないよ。ママもお姉ちゃんも弟や妹達もパパのパパも、みーんな殺されちゃうんだよ」

 殺されるのは俺だけじゃないってことか……。
 割と重い話の気がしてきた。
 未来の俺はどんだけ子をもうけてるんだろうか。
 しかも姉がいるって?

「マリーは双子なのかい?」
「ううん、違うよ。マリーのお姉ちゃんはルーシーなんだ。パパの最初の人の子供だよ」

 究極ブサメンの俺が二人も妻を娶るっ意味なのか?
 それこそ驚愕する事実だが……マリーの話が事実なら俺は誰を娶るのだろう。
 可愛い子なら嬉しいな……。
 それって聞いちゃってもいいものなんだろうか?
 俺にとっては夢みたいな話だ。

「マリー」
「ん?」
「ママのこと聞いてもいいか?」
「いいよ」
「ママは二人いるってこと?」
「ううん。三人だよ」
「な……三人だって?」
「私のママに魔法ママに聖女ママだよ」

 この世界じゃ一夫多妻が当然なのだろうか。
 元日本人の俺には理解不能だ。
 戦国時代じゃあるまいし。

「どのママの話から知りたい?」

 マリーは話す気、満々のようだ。
 マリーに姉がいるってことはマリーは俺の二人目か三人目? とにかく俺の嫁の子なんだな。
 しかしブサメンの俺が三人も妻を娶るなんて、どんな奇跡なんだろうか。

5話へ→
←3話へ

第三話「新たなる家族」

 ガチャリとドアが開く音がした。
 俺を抱きしめてたメアリーがあたふたと慌て俺から離れた。
 離れるとメアリーは椅子から立ち上り俯き加減で、かしこまったように顔を真っ赤にしている。

 部屋に訪れたのは巨躯で短髪茶髪の髭面でイギリス貴族のような装いの男。
 20代前半ぐらいだろうか?
 巨躯の影から先ほどメアリーがマリーと呼んだ少女が駆け寄り、俺の頬を背伸びしながらツンツンする。
 マリーは白いワンピースに茶系の革靴を履いていた。
 更に巨躯の後ろから淑やかそうな20代前半ほどのドレスを纏ったブロンド髪の女性が姿を現した。
 最後に白い法衣のようなものを纏った初老の男が姿を見せる。

「おお! 目覚めたか、ルーシェリアよ。さすが我が子だ!」

 巨躯の髭面の男が太い声でそう言うと、若い女性がすかさず俺を強く強く抱きしめた。それと同時に俺の名はルーシェではなくルーシェリアなんだと理解した。

「ルーシェ……一時はどうなるかと母は心配で心配で毎朝毎晩、聖神アリスティアに祈りを捧げておりました」

 もしや……俺のパパンとママンって設定なのだろうか?
 精神年齢29歳の俺からしてみれば二人とも随分と若く感じる。
 しかもパパンは羨むほどのイケメンだ。
 ママンらしい女性も綺麗に整った顔立ちで、十分過ぎるほど美しい。
 美男美女から生まれた設定で俺だけ究極のブサメンってある意味、残念すぎるだろう。

「シメオン様。ルーシェはもう大丈夫なんでしょうか?」

 俺を抱きしめたままママンと思える人物が初老のオッサンに、振り向き心配そうな眼差しを送る。
 
「心配いたすなエミリー殿、もう大丈夫だろうて、それにしても奇跡としか言いようがない。我々が駆け付けた時、御子息は既に息をしていなかった。神聖魔法を三日三晩したところで徒労に終わると踏んでいたのだが、まさか息を吹き返すとはな……」
「それこそ女神アリスティアのお導きと、ご加護なのでしょう」

 ママンらしい女性が恍惚な表情でシメオンの疑問に答えた。
 俺は一度、死んだってことを言ってるのだろうか?
 まあ、今は深く考えたところで結論がでそうにない。
 ちなみに俺のママンらしい美しい女性の名はエミリーと言うみたいだ。
 少しばかり俺は嬉しくなった。
 二人が両親だとすると前世で天涯孤独になった俺だったが、ここには家族がいる。
 孤独とは決別できたかもしれない。
 両親もメアリーやマリーと同じで髪は亜麻色で琥珀色の瞳だった。
 
「はい、ルーくん、お水だよ」

 マリーが小さな透明のコップを俺へと差し出した。
 喉がカラカラだったのでありがたく頂いた。
 
「マリー、だっけ? ありがとう」
「おかわりあるよ?」
「もう一杯頼むよ」

 ゴクゴクと俺は勢いよく水を喉に流し込んでいく。
 うっめぇ!
 流し込むだけでエネルギーが滾ってくる。
 その充実感に酔いしれ俺はもう一杯、催促してしまった。

「もう一杯いいかい?」

 何故だか三杯目を催促するとマリーは純白の法衣を纏う、シメオンとか言ったオッサンを見据えた。

「大丈夫じゃ、もう一杯ぐらいなら飲んでも毒にはならんぞい。むしろもう一杯ほど念のため飲んでおいたほうがよいじゃろうな」

 純白の法衣のオッサンは顎ひげを指で整えながら、優しげにマリーへそう伝える。
 ただの水だと思ってが飲んでたが明らかに力が滾ってくる。
 もしかしたら、無味無臭だが、ただの水じゃないのかもしれない。

 俺が水を飲んでるとパパンが俺の背中を軽く叩き、ゆるい顔で「メアリー、ルーシェリアの看病御苦労であった。疲れたであろう。今後は十分に休息するがよいぞ」と、メアリーに労いの言葉をかけた。

 合わせるようにママンも「メアリーちゃん感謝してます」と微笑んだ。
 
 すかさずメアリーが「と、とんでもないですっ!」あたふたしながら返事するのであった。
 そういえば、メアリーの服装はメイドぽい。
 黒いゴシック調のドレスに三連星のカチューシャに白いエプロン。
 よくよく見ればキモヲタが好みそうなゴスロリとも言えなくもない。
 
「父さん、母さん。メアリーのおかげで元気になれました」

 けしてメアリーが雇われぽいと感じてメアリーの株を上げようと持ち上げた訳ではない。
 俺の心はメアリーの優しさに随分と癒された。
 その気持ちをそのまま伝えたのだ。
 ところが意に反してパパンは俺の言葉に眉をしかめた。

 何かマズイことを言ってしまったのだろうか……。

「父さん、母さんか……ルーシェリアよ。随分と庶民的だな。ワハハハハ」
「どうしたのです? ルーシェ? いつも父君、母上と申しておりましたのに?」

 ママンが不思議そうに俺の頭をさわさわと撫でる。
 
「ルーシェ様は病み上がりで記憶が混濁してるようなのです」

 メアリーが寂しく沈んだ表情で両親へ告げた。
 
「ルーシェリアよ。ここにいる者の名を全て申してみよ」

 突然、パパンこと親父に振られた。
 えっと……メアリーとマリー……。
 エミリーとシメオンだった気がする。
 
 ヤベェ……親父の名がわかんねぇぞ……。
 
「どうした? 皆の名を忘れた訳ではあるまい?」

 親父が精悍な表情で鋭い視線を飛ばしてくる。
 こ、困った……どうしよう。
 全員がブサメンの俺に注目する。
 ツラに自身のない俺は注目を浴び見つめられると委縮するのだ。

「ルーシェ、母の名は分かりますよね?」

 心配そうな面持ちでママンが尋ねてきた。
 俺は声のトーンを下げ自信なさそうに呟いた。

「母上はエミリーです……」
「まあ、よかったわ、ルーシェ。安心しました」

 ママンことエミリーの浮かない表情がぱーっと明るくなった。

「ねえ、ねえ、私は?」

 マリーが自分を指差しながら聞いてくる。
 
「マリーだよ」
「よかったー! ルーくん、さっき自信なさそうにマリー? ……だっけ? って言うんだもん。マリーのこと忘れちゃったかと思って気にしてたんだ」

 マリーは俺の手から空のコップを受け取り、俺の頬をツンツンする。
 俺のブサメンをツンツンしても誰も得しないぞ……。

「うん。大丈夫だね! じゃあ、ルーくんが甘えて抱きついてたお姉さんは?」

 メアリーに抱きついて泣いてた情けない姿を……妹? ……に見られていたのか。恥ずかしくなった。俺だけじゃないメアリーも恥ずかしそうにしてるじゃないか。
 俺はボソッと「メアリーだよ」って言葉を紡いだ。

「は~い、よくできました! それだけ分かればもう十分だよねっ!」

 マリーが明るくナイスなことを言ってくれた。
 親父の名前がわからないのだ。
 ここまで答えて親父だけわかりませんは面倒なことになりかねない。
 俺にとっては十分過ぎる援護射撃でもあり助け舟だ。
 これで違う話題に流れてくれることに期待しようと思った矢先。

 親父がオレ? オレ? は? と、言いたげに顔を乗り出してきた。
 
「ルーくん、病み上がりで疲れてるからもういいんじゃないの?」

 マリーの発言に親父は不貞腐れたように口元がひきつった。
 
「そうね……ルーシェは病み上がりです。質問攻めは堪えるでしょう」

 ママンことエミリーもマリーに相槌を打ってくれた。
 シメオンは俺が回復してるのを見て満足してるようだ。
 メアリーは相変わらず慎ましくしている。

「うーむ。まあ、よかろう」

 パパンこと親父は渋々折れてくれた。
 俺は内心ほっとした。
 俺にとって未知の世界だ。
 父と母とはいえ、俺は二人の趣味嗜好すら知らないのだ。
 踏んではならない地雷があっても俺には知る術がない。
 いきなり嫌われたくないからな。
 マリーに感謝しなくちゃ。

 こうして話してる間も俺は己のブサメンが気になり皆の顔がちゃんと見れなかった。

 それでも、ほっとし窓へと視線を移すと差し込む光はオレンジ色に変化してたいた。
 陽が沈み始めてるのだろう。
 もうすぐ夕飯で俺の快気祝いを兼ねてくれるそうだ。

「もう、大丈夫じゃ、十分元気を取り戻しておる」

 最後にシメオンの言葉に皆が笑みを浮かべ笑った。
 
 メアリーは夕食の準備へと厨房へと向かった。
 両親も手伝うらしく共に去る。
 シメオンも去り、部屋にはマリーだけが残った。
 
 マリーはベットの横の椅子に座るとニパっと俺に怪しげな笑みを見せると、不可解な言葉を発した。

4話へ→
←2話へ

第二話「もしかして異世界?」

 目覚めると亜麻色髪の少女が俺をのぞき込んでいた。
 琥珀色の瞳がきらきらと輝いてる。
 可愛らしい少女だ。7,8歳ぐらいかな?
 
「メアリぃ! ルーくんが、ルーくんが目を覚まされたのです!」

 ――――メアリー? ルーくん? 誰のことだ?
 
「マリー、本当ですかっ!」
「うん!」

 明るい声とともに見知らぬ少女がまたしても俺をのぞき見る。
 髪も瞳も最初に見た少女と同じ色。
 ただ、年齢と髪の長さが明らかに違う。
 最初の少女はセミロングで幼い小学生って感じ。
 もう一人の少女はロングで少々大人びている。
 高校生ぐらいかな?

 二人の女の子が俺を見てもイヤな顔もせず、にっこりと微笑んだ。
 もしかして、ここは天国なのだろうか?
 
「マリー、すぐにでも旦那様と奥方様にお知らせしてください!」
「は~い」

 とたとたとマリーと呼ばれてた子がドアを開け出ていった。
 俺はその様子を見送った。
 どうやら俺はベットに寝かされてるようだ。
 ここは天国でも地獄でもなく俺は……。
 ――――助かった? ……ってことなのか?

 たしか激突したのはトラックだ。
 撥ねられた反動で顔面を地面に激しく打ちつけた。
 イヤな予感が脳裏を掠める。
 深く考えず、もう一度死にたいと激しく思った。
 きっと俺の身体は全身不随で顔は包帯でぐるぐる巻き。
 身体の部位もどこか欠損してるかもしれない。
 その状態で生きながらに生かされるのはある意味拷問だ。
 疑う余地もなく俺はそう思った。
 
 ところが両手両足に力を込めてみた。
 不思議と痛みもなく……無事のようだ。
 顔を触ってみた。
 包帯も巻かれてなく怪我をしてるような気もしない。
 最悪の結果だけは回避してるようだ。
 少しばかり安堵した。
 すると若干、気持ちに余裕がでる。
 
 目の前の少女。
 かなりの美少女だ。
 学生時代、告白し土下座された子よりも遙かに可愛い。
 こんな美少女がなんで俺の目の前に? おのずと興味がわいた。

「君は……?」
「ルーシェ様、お忘れなのですか? メアリーです」
「……メアリー?」
「まさか……お記憶を?」

 メアリーと名乗った少女の笑みが陰り、刻一刻と表情が変化していく。
 恐らく魔物でも見るような不快な表情に変化すると俺は覚悟を決めた。
 
「ルーシェ様、メアリーですよ? 本当に覚えてないのですか?」

 予想に反してメアリーと名乗った少女の瞳には、不思議と悲しみの色が感じられた。
 何故だか俺に対して嫌悪感を抱いてるって感じではない。
 亡き母が俺を本気で心配してくれてた時と同じ懐かしい感じがした。
 究極のブサメンの俺がこんな美少女に心配されるなんて、夢でも見てるのだろうか?
 
 メアリーの手のひらが俺の額に、そっと優しく触れた。
 とても柔らかく温かい。
 
「熱は下がってるみたいです……ルーシェ様……」

 俺は事故後、発熱して寝込んでたってことなのか?
 そもそもルーシェって誰なんだ?
 俺の名はそんな名では無い。
 
「……ルーシェ?」

 ルーシェって誰だろうって感じで俺は小さく囁いた。
 
「やはり……ルーシェ様、二週間も目覚めなかったのです。記憶が混濁してるのでしょう。でも心配いりません。直に思いだせると思います」

 もしかしてルーシェって俺のことなんだろうか?
 俺は記憶喪失ではない。
 記憶喪失ではないが、俺は彼女達のことを何も知らない。
 俺は彼女達のことを何ら知らないが、彼女らは俺のことを知ってるようだ。
 
 もしかして異世界なのか?
 ラノベやネット小説を読み漁ってた俺が最初に導きだした結論だ。
 俺は改めて自分の身体を弄る。
 身体が小さくなってる気がする。
 だからといって赤ん坊って訳でもなさそうだ。
 俺は自分の手のひらをぼんやりと眺めた。
 サイズが子供のように小さい。
 小さいが見慣れた俺の手相だった。
 
 異世界? そう思った時、俺はある種の期待を胸に抱いた。
 ここが異世界ならば究極のブサメンとも決別し、ネット小説のように何かしらのチートを授かっているかもと。
 しかし、何度も見ても俺の手相だ。
 見間違える要素がない。
  
 期待とは裏腹に愕然とした。
 これじゃ顔も究極のブサメンのまんまじゃないのか?
 記憶を持って若返ってもチートどころか、地獄の日々が延長されるだけじゃないか。そもそもチートと呼べる代物でもない。
 神様やら女神様が俺の前世を見かねて異世界に若返り転移をさせてくれたなら、せめてブサメンをイケメンに修正してほしかった。
 どこぞの大賢者様の転生実験ならもう一度やり直してほしい。
  
 愕然としながらも俺に出来ることは部屋を窺うことだけだ。
 壁面は板張りで床には真紅の高級そうな絨毯。
 石造りの暖炉の上には紋章が描かれた緑色の壁掛。
 食卓のような木製のテーブルに椅子。
 暖炉の前には豪華なソファーがある。
 テーブルの上には燭台があり炎が揺れていた。

 中世ヨーロッパの雰囲気全開だった。
 壁掛の紋章はつがいのダチョウが王冠を掲げている。
 パッと見の印象はどこかの貴族の館って感じだ。

 ベットの中で俺がキョロキョロと首を動かしてるのを見て、メアリーと名乗った少女が心配そうに声をかけてくる。

「ルーシェ様、何か思い出せましたか?」

 よくよく聞くと日本語とは明らかに違う言語だ。
 英語でも広東語でもない。
 それ以外の国の言葉かもしれないが不思議と脳内で変換され意味が理解できる。
 もしや外国だとか外人さんの看護師さんがいる変わった病院とも考えたが、若返ってるのは疑いようがない。やはり異世界だと考えるのが自然だろう。

 目の前に可愛い美少女がいるのに俺は意識的に視線をそらし、彼女の瞳を直視できない。
 俺は究極のブサメンだ。
 ブサメンが彼女を見つめても不快な思いをさせるだけだ。
 迷惑この上ないことだろう。
 今は優しい彼女も俺が調子にのると瞬時に表情が歪み嫌悪感を抱かずにはいられないはずだ。
 俺に優しくしてくれた女の子の表情が豹変するのをもう見たくない。
 17歳の頃のトラウマだ。
 あの日の告白を境に俺は頑なに自分の殻に閉じこもった。
 もう傷つきたくない。

 メアリーがそっと香りの良いハンカチで俺の頬を拭った。
 知らぬ間に俺は涙を流してたようだ。
 耳の穴に涙が流れ込んできてた。
 尚更、俺は泣きたくなった。
 もう、こんなブサメンの俺に無償の愛情を注いでくれる両親もいない。
 若返った分、俺はこれから無駄に長い人生を再度、孤独に歩まないといけないのだ。
 精神年齢29歳にもなって高校生ぐらいの女の子の前で泣いちゃうなんて、俺って本当にクズだ。
 情けねぇ……。
 情けねぇと思えば思うほどメアリーの優しさにほだされて涙が止まらない。

「ひっく……ひっく……」
「ルーシェ様……もう泣かないのです。このまま目が覚めないかと、ずっと心配してたんですよ。もう大丈夫です。ルーシェ様は元気になります。お飲み物をお持ちしますね」

 椅子から腰を浮かせたメアリーの手を俺は咄嗟に掴んだ。
 不安だった。
 二度とメアリーはここには戻ってこない。
 そう感じて手をぎゅっと握りしめた。
 直後それすら、俺は後悔した。
 メアリーが侮蔑の眼差しを送ってくると直感した。

 握ったメアリーの手に力がこもる。
 害虫のように払いのけられると思ったが、メアリーも俺の手を離さなかった。
 それどころか、そのまま俺の上体を起こし抱きしめてくれた。

「起き上がりたいのですね、ルーシェ様。もう、大丈夫です。シメオン様も目覚めさえすれば時期に元気になるとおっしゃってました」
  
 際限なく彼女は俺に優しい…………嘘だろ?
 彼女の亜麻色髪からいい香りがする。
 
「ルーシェ様が目を覚まされてメアリーは本当に安心しました。二週間もずっと眠り続けてたんですよ。胸が張り裂ける想いでした」

 メアリーは俺のことがキモくないのだろうか?
 俺はブサメンの上に精神年齢も、もうすぐ30代のオッサン。
 若返ってはいるが俺の醜い顔は成長するに連れ更なる変貌を遂げる。
 俺は小学生の頃から執拗にイジメられてきた。
 幼少期だからといって可愛い容姿をしてる訳でもいない。
 石を投げられるのは、まだ生ぬるいほう。
 酷い時は犬の糞を顔に擦り付けられゴブリンだのオークだのとバカにされた。

 メアリーに抱きしめられながら俺は過去の幼少時代から続いた地獄の日々を思いだし、そのギャップに困惑した。
 メアリーはとても温かい。
 明日には、いや……5分後には嫌われてるかもしれない。
 それでもいい。
 俺は29歳にもなって高校生ぐらいの女の子に甘える他なかった。

3話へ→
←1話へ

第一話「29歳人生を後悔する」

超魔術転生

 超魔術転生~最強の7歳の俺に嫁と娘がいた~

 俺は29歳。名を語るまでもない。
 引き籠り歴10年以上の、ベテランヒキニートだ。
 究極のブサメンで、この世に生を受けた俺は生まれながらにして、リア終だと悟った。

 小中学校は理不尽にバカにされ、イジメに耐えながらも乗り切った。
 ゴブリンのような醜悪な顔をしてる俺でも、両親だけは優しく愛情を注いでくれたからだ。

 人の価値は顔なんかじゃない。
 顔や身体なんて魂の器でしかない。
 いつも優しく俺に接する両親の言葉を、励みに生きてきた。

 そう、生まれて初めて恋心を抱くまで。

 高校二年の夏。俺は恋をした。
 ブサメンに恋愛なんて無縁の長物だと、俺は頑なに拒絶していたのだが、クラスメートに、はにかむ笑顔が天使のように素敵な女の子がいた。

 授業中、俺の落とした消しゴムを隣の席にいた彼女は、優しく拾い上げてくれた。
 俺の私物に触れることすらキモいと|躊躇《ためら》うヤツらが大半という混沌とした、環境の中でだ。

 彼女は消しゴムを拾い上げ手渡してくれただけでなく、にっこりと微笑みかけてくれたのだ。
 それはまさに俺にとっては奇跡ともいえる大事件であった。

 女の子に優しく微笑みかけてもらったことなんて、高校二年までの17年間の人生で未だかつて一度たりとも、なかったからだ。
 俺の心は何かに揺り動かされた。
 胸がじーんと熱くなって、思わず涙がこぼれそうだった。
 両親以外で俺に微笑みかけてくれる存在など、皆無であったからだ。
 
 ある日。
 夕焼けが射し込む放課後の教室で俺は偶然、彼女と二人っきりになった。
 消しゴムの件から俺は彼女に淡くも切ない想いと期待を寄せていた。
 多くの女生徒が俺を冷たく拒絶し避ける中、彼女だけは俺を見てもイヤな顔ひとつ見せたことが無い。
 むしろ視線が合うと微笑みかけてくれる。

 そう俺にとって彼女だけが希望だ。

 彼女は美少女とまでは言えないが愛橋ある顔立ちの癒し系。
 クラスでも3,4番目ぐらいに人気がある。
 もし彼女を恋人にできれば俺の17年間のリア終は終わりを告げ、起死回生のリア充となることだろう。

 それにイジメられっ子でダメダメな究極のブサメンの俺でも、可愛い恋人ができれば頑張れる、勇気を貰えると心の隅では感じてもいた。

 気がつけば俺の恋心は彼女に本気になっていた。
 二人っきりになるチャンスなんて早々巡ってこない。
 もっと仲良くなりたいと気持ちがはやる。
 恋人まではいかなくとも距離を縮めたい。
 そう考えると気持ちが抑えきれなくなり、俺は一歩二歩と彼女へ告白しようと極度の緊張状態で歩を進めた。

 黒髪を夕焼けで幻想的に焦がす彼女が、俺の接近に気がつき振り向いた。
 目が合った。告白した。
 いつものように微笑みかけてくれる。
 そう信じてた。

 ところが……。
 彼女は俺を見るとギョッと驚き、足が縺れ姿勢を崩しその場に転んだ。
 慌てて手を差し伸べると、彼女が土下座しながら震え声で俺に言った。

「ゆ、ゆるしてください……」

 彼女は一言、俺にそう告げると怯えたように走り去った。
 俺はその後ろ姿をただ茫然と見守る。
 なぜだろう、窓から覗く夕焼け空がやけに哀愁を誘った。

 翌日から燦たる有様だった俺の学校生活は更に加速した。

「おい見ろよ、あいつが告白魔だぜ!」
「うわぁ~……きっも!」
「告白が許されるのはせめてフツメンまでだよね~!!」

 校内で俺を見た生徒は揃って同じ言葉を口にする。
 たった一度の告白で『告白魔』たる、あだ名が付いた。
 不名誉なあだ名が俺の胸を抉るように貫いていく。
 周りの目から逃げ出すように俺は走り出した。
 後ろ指をさされようとも、走り出した足はもう止まらない。

 気が付くと俺は男子トイレの中にいた。
 息も絶え絶えで全身から汗がびっしょりと滲み出ている。
 少しでも心を落ち着かせようと思い、静かに鏡の前に立つとそこには……。

 はぁはぁ……と息を荒くしたブタ公爵さながらのブサメンがいた。

 ちょっとばかり微笑んでみる。
 死にたいぐらい醜悪で下品な顔だ。

「あんた、キモいんだよ!」
「寄るな! この豚! 変態が感染するだろ!」
「こんなのに告白されたら流石のあたしも自殺しそうだわ……」

 彼ら彼女らの罵詈雑言が未だに耳を突く。
 自殺したいのは俺の方だ……。
 
 ――――翌日から俺は不登校になり、引き籠りとなる。
 罵倒の飛び交う監獄の中を悠々と歩く鋼の心も、もはや砕け散った。
 限界だ……。
 それからというもの……食う。寝る。ゲーム、ラノベ、漫画に没頭した。

 人は生まれながらにイケメン、フツメン、ブサメンの三種族に区別される。
 残念ながら俺はブサメンたる種族の中でも究極のブサメンだった。

 この事件をきっかけに不登校になった俺は、ヒキニートのまま29歳の誕生日を通り越した。
 語ること少なきクソみたいな人生だ。
 今では無精ひげが生え、髪もボサボサ。
 来年は30歳。もはや溜息しか出ない。
 この歳になると両親も諦めたのか、昔のように口酸っぱく小言を言うこともなくなっていた。
 ただただ俺の現状を哀れ悲しんでいた。
 俺はブサメンの上、親不幸な最低なクズ野郎になり下がっていた。

 本来なら家から一歩も出たくないのだが、そうも言ってられない。
 俺は今、両親の墓前に添える花を買うため花屋に立ち寄った。
 レジに運ぶと店員の女性は、何かおぞましいものでも見ているかのような目付き。
 スマイルの欠片もない。

 俺は投げやり気味に突き出された花束を受け取りそそくさと花屋を後にする。
 周囲の視線を気にしながら俺は更に徒歩10分の距離にある両親の墓前へと辿り着いた。
 
 父さん、母さん……
 両親の墓前に花を添え俺は、胸が張り裂けそうな思いで謝罪した。
 一月ほど前、両親は交通事故で命を落とした。
 一人っ子な俺は何一つ親孝行ができぬまま、天涯孤独となってしまった。
 
 過去の俺にもう少しだけ、ほんのちょっぴりの勇気があれば、もう少しはマトモな人生が送れたかもしれない。

 もしかしたらブサメンの俺でも奇跡的に家庭を築き、家族と呼べる存在がいたかもしれない。
 時間は過去には戻らない。
 一人ぼっちは寂しい。
 もはや後悔しかない。

 心のどこかで俺は死を求めるように帰路、彷徨った。
 だからと言って自殺する勇気すら俺は持ち合わせてない。
 それでも死ねる機会を切望してた。

 神の悪戯なのか悪魔の囁きなのか、わからない。が、その機会は謀らずとも訪れた。
 少女がトラックに轢かれそうになっていた。
 俺は29年の人生を清算するかのように無我夢中で駆けだした。
 
「あ、あぶなっ!!!」

 少女を突き飛ばした瞬間。
 ――――ドガアアアァ、グッ、カハッァ。
 俺の身体はトラックに激突し宙を舞った。
 最後に「ドカッ」っと転げ落ちた。
 意識が薄れゆく俺は死を覚悟した。

2話へ→

◆◇◆◇◆◇超魔術転生~最強の7歳の俺に嫁と娘がいた~
日間最高2016年06月07日【6位】
小説家になろうで連載中です! よろしくお願いします!
小説家になろう
※なろうテキストコピーの為、ルビの記号はそのままです。

作品の目次です

暁えるです。

小説家になろう用に『超魔術転生~最強の7歳の俺に嫁と娘がいた~』を執筆中です。
よろしくお願いします!

小説家になろうへ

はじめまして。

どうもはじめまして。
小説を書いている暁えると申します。
拙い文章ですが楽しんで頂ける方がいれば幸いです。

SF・ファンタジー・オカルト系の小説を書いていく予定です。
趣味で書いてるものと公募用をUPしてます。

ブログの主目的は誤字、脱字のチェックです。
読んで頂いた方で誤字とか脱字を発見した方は教えてください。
よろしくお願いします~。